靖也決勝戦。


今日も「今できる事」を怠らずに試合に臨む。決勝戦前、リング下で試合を待つ靖也を呼ぶ。最後の手ミットをして「これが本当に最後の最後や。思いっきりいけ!」と声を掛ける。技術や戦術的な事ではなく、「思いっきりいけ!」と言った事に僕自身が驚いた。
この試合で勝つも負けるも靖也の経験だ。「今できる事」はやれるだけやってきた。相手は勘の鋭いセンスのある選手だ。ひとつ狂えば負けもあり得る。どんな結果が出ようとも、悔いなく戦ってほしいという思いがその言葉になったんだと思う。
ガードが低く柔軟に戦う相手に対して靖也のボクシングは固い。だけどそれは資質であり、強いパンチと二年半で鍛えてきた脚力が靖也にはある。
昨日と同じく、今日の靖也はいつもの靖也ではなかった。楽勝できるとは思っていなかった相手に10ポイント以上の大差を付けての優勝を決めた。

あのやる気が薄くて怒られ続けてきた靖也の手が決勝のリングで上げられている。不思議な気分だ。

リングから降りてきて「ありがとうございました」と泣いている靖也に涙を堪えるのが必死であまり声を掛けてやれなかった。でも本当によくやった。おめでとう。
一度は辞めさせようとした靖也だったが、この2年半でとても大きく成長できたんだろう。でも、ここがゴールじゃない。この経験を糧にこれからの人生をもっと有意義に大切に生きていってほしい。
僕にとって、高校ボクシングでの指導とは正に「人づくり」なのかもしれない。それを教えてくれた靖也、そして兄、章裕の高瀬兄弟への指導約5年間。僕も多くを学ばさせてもらった。感謝。        マサ